2013年11月15日

東京大学アイソトープ総合センターセンター長 / 東京大学先端科学技術研究センター教授の児玉龍彦さんに、ユレッジでインタビューして来ました。近著、『放射能は取り除ける 本当に役立つ除染の科学』の内容を踏まえ、南相馬市を中心に現在も福島の除染活動に携わる児玉さんには、東日本大震災を引き金にしたこの国が抱える環境問題について、科学者としての知見を軸に、しかし現場に寄り添いながら、この国の科学技術が果たすべき役割について、示唆をいただきました。

取材:加藤 康祐

【加藤】先日、トークイベントにうかがった時に、福島の方が来られていて、今までは、やれることがわからなかったけど、やれることがわかったから、やれるようになった、というお話をされているのが印象的でした。『放射能は取り除ける』というタイトルの本を出版されたこと自体が、色々な人に、放射能を取り除けるのか取り除けないかという、根源的な問を投げかけていると思ったのですが、改めて今の除染の現場についてお話いただけますか。

【児玉】まず、住民の希望から申し上げます。先日、環境省が南相馬の小高地区、葛尾村で今避難している世帯の世帯主調査を行いました。戻る事をきめている人が29%、帰りたくないという人が26%、でも一番多かった44%の人は、まだ決められないという人で半数。どの程度、綺麗になるか、それによって、もし本当に国や自治体が地域を綺麗にしようとしているのであれば、戻りたいという人が多数だということです。

【加藤】現状、わからないことの方が多いということですよね。

【児玉】そうです。もう一つは、この間、オーストラリアの教授が来られて、一緒に食事をしていた時に、「日本人はよくやるなあ、ロシア人やオーストラリア人だったら、放射能降ったところはさっと捨てて、別の場所に皆移るよ、だけど日本じゃ、移るところがないね」とおっしゃいました。その時に私は、日本は水俣湾の底を浚渫して水銀を除いています、富山のカドミウムの溜まった畑を何百億とかけて土壌改良をやっています、四日市の空気を綺麗にしました、という話をしました。その四大公害裁判の結果として、アメリカのマスキー法(大気中のCO2を下げるための法案)ができた時に、日本のホンダがCVCCエンジンという低公害エンジンを開発できました。開発が行われていたのは浜松など東海地区、四日市の対岸でしょう。それを眺めて、綺麗なエンジンを作るべく取り組んでいたわけです。だから、経済成長できた。日本の場合は従来のものより環境に優しい技術を作ることで成長して来たのです。トヨタのプリウスであったり、東レなどがサウジアラビアでRO(逆浸透)膜で水を綺麗にすることに取り組んでいたりしていますよね。僕らはノーベル賞の田中さんのいる、島津製作所にお願いして、お米がチェルノブイリの400倍の速さで放射能の検査をできるようにしてもらいました。

よく、「除染ができない」という人は、チェルノブイリでできなかったじゃないかとおっしゃるのですが、ロシアの場合、ベラルーシとかウクライナですけど、平坦で使われてない場所が圧倒的に多い。ですからこの地域が汚れたらあちらに移しましょう、という方が新しい街を簡単に作れるわけです。だけど、日本で新しい街を作ると言っても、まず、なかなか他の地方公共団体はOKできないでしょう。ですから、日本の場合は優れた環境技術で、チェルノブイリとは違った対応の仕方をやらないと、本当に住民のためにならない。ただし、どういうものを求めるかというところは、住民が決めるべき問題ではないかと私は思っています。

今の日本の議論で一番おかしいのは、上から目線で、避難しなさいか、黙って我慢してれば良い、の二択しかない点です。これが住民に非常に苦痛になっている。避難するか、それとも踏み止まって綺麗にしていくかというのは住民が決めることであり、それを応援することが大事です。100万人近くの人が、ある程度の汚染地域で生きて、そこを綺麗にしようと言っている時には、きちんとした技術を提供して、その住民に応えていく、それから10万人を超える人が避難しているという実情のもとでは、その避難をしっかりサポートしていく、ということが大事じゃないかというのが基本的な考え方です。除染が無理じゃないか、という議論は、実際には現実の住民の希望とか住民の置かれた状況からスタートしていない。それが一番問題だと思っています。

【加藤】先日も、「問題を日なたに出しておく」というお話のされ方をしていましたけど、手がつけられないから放っておくということになってしまうと、勿論、現場で動いていらっしゃる方は動いていると思うのですが、特にそれ以外の地域にいる人が他人行儀になってしまいがちだと思っていて、今日たまたま友人が除染した土が詰まっている黒いフレコンバッグ(粉末や粒状の荷物を保管・運搬するための袋状の包材)が積み上げられた写真をネットでシェアしていて、しかし、そこに何が入っているかという説明がなされなくては、やはり伝わりきらないとも思います。

【児玉】今、僕が政府で一番問題だと思っているのは、その放射性のゴミを減容(容積を減らすこと)しないという点です。そのまま中間保管所に持って行くことが、コストが安いからその方が良いということになっている。これは汚染水をタンクに詰めるのと同じで、お水10t詰めるのは簡単だけれど、タンクで80万tをずっと維持するのはすごく難しいし、1000万tの土を保管所で管理するなんて、今まで経験がない。そういうことを割と安易に、今、安かろう悪かろうで対策を決めてしまうのは問題があると思っています。

それからもう一つ、先程の除染の話に戻るのですが、放射線管理の専門の立場からすると、一番大きい問題は、目標は放射性物質の除去であって、空間線量を指標にするとすごくおかしな話になってしまいます。空間線量、ガンマ線というのは放射性物質から常に60m離れても検出できますから、1点を綺麗にする場合、1平方メートルを綺麗にしても、空間線量は全然変わらない。除染を意味がないという議論の多くは、空間線量の計測値の議論であって、歴史的に見ると、我々、放射性物質の管理の責任者というのは、放射性物質を人体内に入れないということを一番問題視するのです。ですから、例えば、空間線量で言ったら、CTスキャンを1回受けたら5ミリシーベルト放射線にかかりますよ、という説明をしますが、CTスキャン1回ですぐ癌になるという議論を誰もしてないわけですよね。5ミリシーベルトの空間線量の放射性物質がばらまかれた中にいたとして、体の中に入るものが増えてしまったら、甲状腺癌などになってしまうというのがチェルノブイリの教訓だったわけです。

だから、除染の目標というのは、環境中にある放射性物資を除くこと。除染は意味がないという議論が我々にはとても理解できないのは、環境中にある放射性物質を減らせば、リスクはそれだけ減るわけなのですよね。例えば、富士フィルムファインケミカルの広野工場では、お金も力もある企業ですから、真っ先に1年で12万平方メートルという敷地を綺麗にしました。富士フィルムはご存知の通りレントゲンフィルムの会社ですし、富士フィルムRIファーマという放射性物質の薬も作っている会社もありますから、技術力もある。そういうところは敷地内の5000カ所を1年の間に完全に空間線量をくまなく1ミリシーベルト以下にできた。だから、技術的にできないということは全くない。放射性物質は測れますから。

もう一つおかしいと思うのは、放射性物質は目に見えないし、音にも聞こえないから、カウンター持って行って騒ぐ人がいなければ、気にしなければいいのだという議論があるじゃないですか。だけど、今までカドミウムも水銀も目に見えたり音に聞こえたりしたことはないのです。環境破壊の原因になっているようなものは全部そうです。だから目に見えない何かだから気にしなければ良い、というのは全く間違いです。それから、体の外とか空間にある量の問題と、個々の一人一人の人間がどうかという問題は全然違って、現実に南相馬で最初、坪倉先生という方がホールボディカウントを始めた時も、子供の3人に1人から体内にセシウムが検出されていたわけですよね。そうすると気にしなければ良い、というのはとんでもない暴言であって、自分の子供の中にカドミウムや水銀や放射性セシウムがたまっていくいうことに、耐えられる親なんか一人もいない。だから当初のさしあたって健康に被害がない、気にしなければ良い、という話が、いかに住民にとってひどい議論だったかというのは、今になってよくわかると思うのですね。

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児玉 龍彦 / 東京大学アイソトープ総合センターセンター長 / 東京大学先端科学技術研究センター教授

1953年、東京都生まれ。1977年、東京大学医学部卒業。東京大学医学部助手、マサチューセッツ工科大学研究員などを経て、東京大学先端科学技術研究センターシステム生物医学教授。2011年4月より東京大学アイソトープ総合センター長を併任。2011年3月11日の震災直後から、南相馬市を中心に福島の除染活動に携わる。7月27日の衆議院厚生労働委員会での参考人演説が、YouTubeで100万回以上再生されるなど、大きな反響を呼び、英科学誌『ネイチャー』で「科学に影響を与えた今年の10人」に選ばれた。現在も、南相馬市除染推進委員長、楢葉町除染評価委員長として、現地での除染活動にあたる。著書に『内部被曝の真実』(幻冬舎新書)、『放射能から子どもの未来を守る』(金子勝氏との共著、ディスカヴァー携書)、『逆システム学』(金子勝氏との共著、岩波文庫)、『考える血管』(浜窪隆雄歯との共著、ブルーバックス)、『システム生物医学入門』(仁科博道氏との共著、羊土社)等がある。

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