2014年05月24日

取材:加藤 康祐

茨城県つくば市に防災科学技術研究所はあります。今回、ユレッジでは、この防災科学技術研究所を見学させていただきました。災害と一口に言っても、様々な種類があります。地震、火山、気象、土砂、雪氷と言った様々な自然災害を研究、検証し、防災のためのシステム構築や観測網の整備、ハザードの発信、被害リスク評価、啓蒙活動などに取り組んでいるのが、防災科学技術研究所です。ユレッジではこのうち特にユレッジでテーマとしている「地震」について、どのような取り組みがなされているのかレポートしたいと思います。

地震観測網

IMG_7940

地震計、左がK-NET、右が地中に埋めて計測できるHi-net、KiK-net。

現在、メインで利用されている地震計を見せていただきました。地震計には地表に設置するK-NETと、地中に埋め込んで計測できるHi-netKiK-netがあります。

K-NET
K-NET(Kyoshin Net:全国強震観測網)は独立行政法人防災科学技術研究所(防災科研)が運用する、全国を約20km 間隔で均質に覆う1,000箇所以上の強震観測施設からなる強震観測網であり、1996年(平成8年)6月に運用を開始しています。地震被害に直接結びつく地表の強震動を均質な観測条件で記録するために、各観測施設は、一部の例外を除き統一した規格で建設され、自由地盤上(地表)に強震計が設置されています。また、各観測施設では得られた強震記録の特性を詳しく理解するために土質調査を行っています。

KiK-net
KiK-net(Kiban-Kyoshin Net:基盤強震観測網)は、全国にわたる総合的な地震防災対策を推進するために、政府の地震調査研究推進本部が推進している「地震に関する基盤的調査観測計画」の一環として、防災科研が、高感度地震観測網(Hi-net)と共に整備した強震観測網です。KiK-net の観測施設は、全国約700 箇所に配置され、各観測施設には観測用の井戸(観測井)が掘削されており地表と地中(井戸底)の双方に強震計が設置され、鉛直アレーを構成しているのが特徴です。

Hi-net
高感度地震観測施設は,人間には感じられない非常に小さな地震による揺れまでキャッチするために, なるべく静かな場所を選んで深さ100m以上の観測井戸を掘削し,その底部に観測計器を設置します。 小さな地震は発生する頻度が非常に高いために,このような観測を実施することによって, 各地域における地震の活動度や地震の発生様式,地下の構造等を精密に把握することが, 迅速にできるようになると期待されています。

つまり、K-NETとKiK-netによる強い揺れの全国的な観測網(強震観測網)と、Hi-netによる微弱で頻発する揺れの観測網(高感度地震観測網)の2つを持っているということです。僕らが日常的に体験しているのは、東京震度4、横浜震度3というような、エリア別の震度ですが、実際は網の目のように張りめぐされたまさに観測網が、継続的に日本の「揺れ」の情報を常時モニタリングしていて、それらが地震発生時のハザードの発信や、中長期的な被害リスク評価のための材料として、蓄積されているのです。

IMG_7963

これが屋外に設置された地震計、K-NET。全国に約1000箇所ほどあるそうです。

防災科学技術研究所の屋外に設置されたK-NETの写真です。

IMG_7956

日本中の地震計のデータが集まってます。

全国の観測網が計測したデータをモニタリングできる部屋も見せていただきました。つまり、防災科学研究所の観測網は、即時の対応のための観測データの取得と、中長期的な防災対策のための観測データの収集という2つの役割があり、強震と高感度、異なるタイプの地震計を活用しながら、日本の「揺れやすさ」をモニタリングしているのです。

地震ザブトン

皆さん、地震ザブトンをご存知でしょうか。屋内で地震動を再現できるシミュレーターです。地震と地震動の違いについては以前のユレッジの記事を参照ください。簡単に言うと、地震を観測した、その場に自分がいたとして、その場の揺れを観測データを元に再現し、体験できるシミュレーターが地震ザブトンです。

IMG_7920

自走するシートが観測データに基づき地震動を再現し、眼前のプロジェクターにシミュレーション映像が映し出される仕組みです。振動の体感なので、シートに深く腰かけ、背面と頭をきちんとシートに密着させると、より忠実にその場の地震動を体感できるとご説明を受けました。今回、僕は以下の地震動を体験して来ました。

  • 阪神淡路地震
  • 新潟中越地震
  • 東日本大地震(茂木での地表の観測結果と新宿高層ビル50階の観測結果)

阪神淡路地震
直下型の地震です。横に大きく引っ張られます。40秒ほど。

新潟中越地震
直下型の地震です。小さく強い力で振られます。40秒ほど。

東日本大地震(茂木・地表)
海溝型の地震です。小さく強い揺れが来て、30秒後大きく揺れます。普通の地震と思っていると、思っていた以上に強くなり慌てます。98秒ほど。

東日本大地震(新宿・高層ビル50階)
海溝型の地震です。今まで経験したような小さく強く引っ張られる揺れがないかわりに、大きく揺さぶられます。船で揺られているような感覚。いつ終わるかわからず、不安を覚えます。地震がおさまっても、ビルは揺れ続けます。194秒ほど。

※上記はあくまで個人の体験に基づく描写です。

IMG_7937

実際に体験してみると、それぞれに特徴があることがわかります。またそれらを比較すると、直下型・海溝型での違いや、地表・高層階での違いが浮き彫りになります。僕らは「大きな地震」というのを経験則として掴んでいる部分がありますが、一方で、「大きな地震というのはこういうもの」というのが、それぞれのいた環境・状況で大きく異なるであろうことを改めて思いました。横浜の仕事場で仕事していた僕と、六本木のオフィスで仕事していた仲間では、おそらく「揺れの体験」は大きく異なるはず。

またこの地震ザブトン自体にも改良点はあるだろうと感じました。現在は2Dでの動きですが、実際の揺れは縦にも来ますし、3Dでの動きが伴えば、更に忠実な再現が可能になるだろうと感じました。また視覚情報に関しては、Oculus RiftのようなVR技術を利用して没入感を作ることができれば、より体験にリアリティを持たせることができるのではないかとも。

こうして体験をしてみると、まだまだ「わかってない」ということと「わかった気でいることのリスク」というのは少なからずあるだろうと思いました。自分の経験が、ある意味で地震をステレオタイプ化してしまっている部分もあるだろうと思いました。東日本大地震からは3年という月日が流れましたが、まだ記憶に自分の経験が留まっているうちに、もう一度、近い人と当時の「揺れの経験」をシェアしてみても良いかも知れません。

まとめ

防災科学技術研究所では他にも大規模な風雪の実験施設や、過去の災害に関わるあらゆる書籍や観測データを保管しているライブラリなどを見学させていただきましたが、今回はそのなかでも特に地震に関する観測データと、その活用法にフォーカスして、僕が見せていただいたものをレポートしました。

全国に張り巡らされた観測網、そこから収集された観測データ、それをどのように人々の防災や暮らしに結びつけたり紐付けたり啓蒙したりできるのか、そういう取り組みが今後も継続的に行われていかなければならないのだと思います。また、今はこの観測網、以外にも様々な防災にかかるデータがあります。例えば震災時に皆がどのように移動して家路についたかというような情報、ソーシャルメディアでどのようなことが話題になったかというような情報、以前、ユレッジでも野村総合研究所ICT・メディア産業コンサルティング部の鈴木良介さんに「ビッグデータで人は動くか?」として寄稿いただきましたが、様々なデータがマッシュアップされることによって、「自助高度化だけでなく、共助・公助」も成し得るのだと思います。

最近、読んだ本に寺田寅彦さんの『天災と国防』という本があります。「天災は忘れた頃にやって来る」という言葉を残した人です。残念ながら、防災は「風化」という言葉とリンクしていて、大きな自然災害が起きると、話題になり、出版物も増えるが、時間の経過と共に出版物も減っていくという話を、防災科学技術研究所のライブラリでもうかがいました。様々な取り組みが、いたずらに危機感を煽るでなく、次起こり得る大きな災害への備えとなるよう、ユレッジでも引き続きこの国の人たちの様々な取り組みにフォーカスして、お伝えしていければと考えています。

天災と国防 (講談社学術文庫)
寺田 寅彦
講談社
売り上げランキング: 262,851

関連記事

第3回:Blabo! × ユレッジ コラボ企画 世界一地震が起こる日本を、世界一被害が生まれない国にするための防災アイデアレビュー 【A】前回ご紹介したJ-SHIS Mapで断層情報が見れる件、関西在住のお友達に教えてあ […]

詳細を読む

ユレッジからのお知らせお知らせ一覧へ

今、読まれている記事

丸山 宏 / 統計数理研究所副所長・教授

「レジリエンス」。自己回復力などとも訳されます。このことはこの1年のユレッジのサブテーマでもありました。1年以上前にこの言葉を最初に僕に教えてくださったのが、統計数理研究所副所長・教授の丸山宏さんでした。2015年3月1 […]

詳細を読む

長谷部 雅一(はせべまさかず) / Be-Nature School スタッフ / 有限会社ビーネイチャー取締役 / アウトドアプロデューサー / ネイチャーインタープリター

誰しもが一度は「アウトドアって防災に役立つのでは?」と考えたことあるのではないでしょうか。アウトドアプロデューサー、ネイチャーインタープリターの長谷部 雅一さんにうかがったお話は、アウトドアの経験が防災に役立つ、という話 […]

詳細を読む

渡部 慶太 / (特活)石巻復興支援ネットワーク 理事

「復興は進んでいますか?」そういう質問をたまに耳にすることがあります。石巻復興支援ネットワーク 理事の渡部 慶太さんに寄稿いただきました。2011年以前と以降で東日本大震災は社会起業と呼ばれていた世界にどう影響を及ぼした […]

詳細を読む

江口 晋太朗 / 編集者 / ジャーナリスト / NPO法人スタンバイ理事

今日、防災について考えるにあたって、欠かすことのできないものが「情報」です。編集者、ジャーナリストでNPO法人スタンバイ理事でもある江口晋太朗さんに、防災とジャーナリズムについて改めてお話をいただきたい、というのが今回の […]

詳細を読む

小島 希世子 / 株式会社えと菜園 代表取締役 / NPO農スクール 代表

ユレッジでまだ食べることと防災のことについて扱っていないという時に、ご相談することにしたのがえと菜園代表取締役、NPO農スクール代表の小島希世子さんでした。著書『ホームレス農園: 命をつなぐ「農」を作る! 若き女性起業家 […]

詳細を読む

嶋田 洋平 / らいおん建築事務所 代表 / 北九州家守舎代表取締役 / 建築家

私たちは、自分の街のことをどのくらい知っているでしょう?家と駅とコンビニを結ぶ導線以外の道を通ったことはありますか?駅とは反対側の道を歩くとどんな景色が広がっているのか知っていますか?そして、災害が起きた時、またもう一度 […]

詳細を読む

松下 弓月 / 僧侶

僧侶の松下弓月さんに寄稿いただきました。ユレッジで、防災と心のケアについて、という難しいお願いに辛抱強く取り組んでいただきました。防災における仏教の役割を、現実的な解として、提示いただけたと思います。 こんにちは。僧侶の […]

詳細を読む

高橋 憲一 / Hack For Japan スタッフ / イトナブ理事

震災から3年余りを過ぎて、ITと防災の分野で、ここまで行われてきたことを振り返って俯瞰し、これからの取り組みの見通しが効くようにしたい、それがHack for Japanの高橋憲一さんへのお願いでした。テクノロジーの未来 […]

詳細を読む

徳島 泰 / 青年海外協力隊(産業デザイン) / FabLab Bohol マネージャー / 比国貿易産業省 デザインディレクター

今回のテーマは「プロダクトデザイン×防災」ということで、フィリピンのボホール島で青年海外協力隊として活躍する徳島泰さんにスカイプでインタビューしました。国は違えど共通で浮かび上がる災害時の課題。防災において、プロダクトデ […]

詳細を読む

鈴木 さち / 東北大学大学院工学研究科都市・建築学専攻博士課程後期1年 / RAW

東北大学大学院工学研究科都市・建築学専攻博士課程後期1年の鈴木さちさんにRAW(リスク&アーキテクチャー・ワークショップ) 石巻をレポートいただきました。イベント・レポートのみならず、そこに至るまでの経緯も含めて、丁寧に […]

詳細を読む

北村 孝之 / NPO法人ボランティアインフォ 代表

災害ボランティアセンターをご存知でしょうか。ボランティア希望者とボランティア団体をつなぐ、NPO法人ボランティアインフォの北村 孝之さんにユレッジでインタビューしました。災害時、災害後、求められる中間支援がボランティアの […]

詳細を読む

畠山 千春 / 暮らしかた冒険家

2011年3月11日の東日本大震災、その後の原発事故。誰しも、とは言いませんが、一瞬「今、住んでいる場所を離れる」ことを考えた人は多いのではないでしょうか。ユレッジでは糸島シェアハウスに住む、暮らしかた冒険家、畠山千春さ […]

詳細を読む

野田 祐機 / 公益社団法人助けあいジャパン 代表理事

公益社団法人助けあいジャパン 代表理事の野田 祐機さんに寄稿いただきました。全国47都道府県から2,000人もの学生を東北へ連れて行く「きっかけバス」。復興や防災を自分ごとにするための助けあいジャパンのプロジェクトです。 […]

詳細を読む

児玉 龍彦 / 東京大学アイソトープ総合センターセンター長 / 東京大学先端科学技術研究センター教授

東京大学アイソトープ総合センターセンター長 / 東京大学先端科学技術研究センター教授の児玉龍彦さんに、ユレッジでインタビューして来ました。近著、『放射能は取り除ける 本当に役立つ除染の科学』の内容を踏まえ、南相馬市を中心 […]

詳細を読む

小泉瑛一 / 株式会社オンデザインパートナーズ / 一般社団法人ISHINOMAKI 2.0 理事

株式会社オンデザインパートナーズ、一般社団法人ISHINOMAKI 2.0理事の小泉瑛一さんは、震災直後から東日本大震災の被災地、宮城県石巻市に入り、ほぼ常駐に近い形で、現地の方々をはじめとした様々な方々と一緒になってま […]

詳細を読む

鈴木 良介 / 株式会社野村総合研究所 ICT・メディア産業コンサルティング部所属

株式会社野村総合研究所ICT・メディア産業コンサルティング部の鈴木良介さんに寄稿いただきました。鈴木さんは『ビッグデータビジネスの時代 堅実にイノベーションを生み出すポスト・クラウドの戦略』のほか、ビッグデータに関する執 […]

詳細を読む

三橋 ゆか里 / ライター・記者

ライターの三橋ゆか里さんは、日本のみならず、海外のWEBサービス、アプリ、スタートアップ事情にも精通しており、様々なメディアに執筆されています。ユレッジではテクノロジー企業やスタートアップが、災害時、また、防災に、どのよ […]

詳細を読む

2013年06月19日更新

「その時Webが出来ること」

和田 裕介 / 株式会社ワディット代表取締役 / 株式会社オモロキCTO

和田裕介さんは、人気サイト「ボケて」を初めとした、様々なWebサービスを手がけるエンジニアです。和田さんには震災を受けて、自身が開発したWebサービスを振り返りながら、自分自身の経験と、これからWebサービスが防災に果た […]

詳細を読む

渡邊 享子 / 日本学術振興会特別研究員 / ISHINOMAKI2.0

渡邉享子さんは、研究者でありながら、東日本大震災以降、ISHINOMAKI2.0のメンバーとして、石巻に居住しながら実践的なまちづくりに取り組んでおられます。その石巻での活動を踏まえ、社会(コミュニティ)と環境のデザイン […]

詳細を読む

松村 太郎 / ジャーナリスト、著者

ジャーナリストの松村 太郎さんは、現在、アメリカ西海岸を中心に活躍されています。ユレッジには今年3月、被災地を取材したことを下地に、震災の記録と記憶の情報化について、またそこにある「学び」についての示唆をいただきました。 […]

詳細を読む

児玉 哲彦 / フリービット株式会社 戦略デザインセンター デザイナー

フリービット株式会社 戦略デザインセンター デザイナーの児玉 哲彦さんは、自社において、製品開発やブランド醸成、プロジェクトマネージメントなど様々な領域で、デザインをどう実際のアクション・プランに落とし込んでいくか、デザ […]

詳細を読む

2013年04月09日更新

「ユレッジとは?」

加藤 康祐 / 株式会社イーティー 代表取締役社長 / プランナー

ユレッジは、日本の「揺れやすさ」と地震防災を考えるサイトです。 ユレッジは: 揺れの「ナレッジ」(知)が集まるメディアであり、 揺れについて学ぶ「カレッジ」(学び)であり、 揺れと日々の暮らしの関わりを考える「ビレッジ」 […]

詳細を読む

防災に関わる私が『想像ラジオ』を無視できない3つの理由 あじー なぜいま、災害作品レビューを書くのか 東北地方太平洋沖地震の発生から5年が経ちました。私たちは震災を契機に地震や災害とどう向き合うべきなのか?いまだ確実な答 […]

詳細を読む

アイデアの実現可能性、そして、ハッカソンという方法論によるそのアイデアの実現可能性、それらが地震防災にどう役立つのか。ユレッジではアイデアソンに続き行われた「Race for Resilience」のハッカソンを、スター […]

詳細を読む

第3回:Blabo! × ユレッジ コラボ企画 世界一地震が起こる日本を、世界一被害が生まれない国にするための防災アイデアレビュー 【A】前回ご紹介したJ-SHIS Mapで断層情報が見れる件、関西在住のお友達に教えてあ […]

詳細を読む

'